うめけん校長、十勝の加盟校を訪問

酪農にIT? 酪農家がDX学校を受講した理由

DX学校梅崎健理校長の受講者インタビュー

DX学校のうめけん校長は、東京を離れて北海道・十勝の牧場を訪問しました。訪問先は、DX学校のIT導入士講座を牧場の経営に活かしている株式会社十勝ふじや牧場の藤谷社長です。十勝ふじや牧場は明治の時代から続く、100年を超える歴史をもつ牧場です。IT導入士講座で学んだことが業務にどのように活きているか、お聞きしました。

受講の理由はデータの管理

梅崎校長 藤谷さんにDX学校のIT導入士講座(初級講座)を受講していただいてからどのくらい経ちましたっけ?

藤谷社長 まだ1年は経っていませんね。

梅崎 DX学校が、牧場を経営されてる方に受けていただけて非常に嬉しいなと思っています。農業とか、酪農とかの事業者がIT化してるイメージとか、ITを勉強してるイメージが全くないんだそうなんですよ。

藤谷 実は農業は、畑作にロボット・トラクターを導入したりとか、いろんなIT化が進んでいるんですよ。

梅崎 藤谷さんは、なぜDX学校を受講しようと思ったのですか?

藤谷 受講した理由はデータの管理です。それまではなんとなく生産量や検定成績などを見て「よかったな」などと感じて、「年間通してまぁこのくらいだろうな」と思っていたんです。これをデータにすることによって「自分が思ったより良かったんだ」とか「ここは良くなかったんだ」っていうのをよく見てこれからに活かしていこうと思って受講してみました。

梅崎 DX学校を受講する前から「データの管理はしなくちゃな」というのは思ってらっしゃったってことですか?

藤谷 そうですね。データ管理もそうですし、あとは財務的なことですね。

梅崎 ITはDX学校に入る前からも結構やられてたんじゃないんですか?

藤谷 いやいや、いまでもExcelは妻におまかせですし、ITは好きなんですけどなかなかうまく使いこなせなくって、DX学校を受講して、何ができるんだ、これはできないって線引きができるのもいいかなと思ったんです。

はじめてのIT導入は牛の管理に付けたセンサー

梅崎 IT導入のきっかけは何だったんですか?

藤谷 大きい牛にセンサーを付けて体調管理を始めたことです。今から3年か4年前です。牛を育てるのには「起立困難」という大きな課題があるんです。牛を育てるのを「肥育」というのですが、この後期に牛が横になった状態から起き上がれなくなることがあるんです。起立困難な状態のまま放置すると肺が圧迫され、牛が窒息死をしてしまうことがあるんです。これが自分たちの大きな課題だったんですね。これを解決するために牛にセンサーを付けて牛の動きを管理するという方式を生み出した会社があって、これを知って試し始めたのが最初です。

梅崎 なるほど。ということは、今は取ろうとデータを取ろうと思ったらいろんなデータが取れるわけですね。

藤谷 そうなんです。データは取れてはいるんだけれども、それがうまくまとめられていないというのが実情ですね。

梅崎 いまここに入ってきたときに見たんですけど、今日準備する飼料の量が看板に表示されていたんですけれど、牛が食べる飼料(えさ)の量とか牧草を育てるのに使う肥料の量とかのデータなんかも記録しているんですか?

藤谷 ああ、あれは「見える化」ですね。飼料を用意する人に口頭で伝えるんじゃなくて看板を見ればひと目で量がわかるようにしているのです。飼料や肥料の量は、以前は紙で記録していたのですが、苦にならないようにしないと続かないですよね。何か楽しみがないと……。今は苦にならないような仕組みを考えてるんですけどね。

梅崎 DX学校の初級講座でも学習する、Googleフォームを使ってみるとか、どうですか?

経営計画の立案に数字の予測が大事

梅崎 DX学校の講座を受けてみて、どうでしたか。

藤谷 僕はここで農業を仕事としているんですが、酪農だろうと畑作だろうと、他の仕事だろうが、経営という部分はいっしょじゃないですか。ものを売っていって、その収入が入るっていう。それをデータ化をすることができれば、活用できるんじゃないかと思いました。

梅崎 先ほど「数字にしてみると、改めてこういうふうにやってんだな、ってわかる」とおっしゃってましたけれども、今取り組んでることって何かありますか?

藤谷 今、中期経営計画とか、そういうものを考えているんです。銀行から融資を受けるときや投資を受けるときに、なんとなくの数字じゃ納得もできないし承認も得られないので、より具体的な数字を提示して「今はこんな感じですけど、この2年後3年後にはこういうふうになっていく」っていうことを指し示すことができれば、と思っているんですね。数字の予測が大事だと思っています。そのためには、根拠になる数字が必要です。

梅崎 そうですね。飼料や肥料の量とか、牛の体重とかも経営に関わってくる数字ですもんね。数字に落としたり、変化を数字で感じ取れるところって、たくさんありますよね。

藤谷 はい。今うしろで牛が飼料をバクバク食べてますけど、この飼料も1Kgなんぼ、ってお金がかかってるんです。今食べてる牧草は買ってきたものじゃなくて自分の農園で育てているんですけど、育つまでにはお金がかかっているんです。そうしたものもデータ化することによって「一体いくらかかってるの」「いくら儲かってるの」っていうことがわかるわけです。

梅崎 農家さんって、それを感覚的に捉えちゃってるんでしょうか?

藤谷 「農家さんが全部が全部」というわけじゃないですけど、どんぶり勘定のところもありますからね。通帳を見て「今年は儲かったね」「今年はダメだったね」なんていうところもありますからね。

梅崎 勘とかじゃダメ、ってことですかね?

藤谷 勘でやってもわからないですからね(笑)。

DX学校を受講してよかったところ

梅崎 DX学校の一連の講座を受けてみてよかったところってどんなところですか?

藤谷 うちの牧場はJGAPという農業の認証資格を取ろうとしているんです。JGAPというのは「Japan Good Agricultural Practice」の略で、生産した食品の安全性を満たしていることを、日本の基準で認定してくれるものなんです。牧場の仕事を細分化していって農業生産の工程を管理するんですが、これにはDX学校で学習したGoogle Workspaceなどを利用した方法が使えるな、と思っています。

梅崎 認証を取るとかにも役に立ってるんですね。

藤谷 あと、一番はじめの講義でインターネットの歴史をやったんですけど、「初めの頃はこのことしかできませんでした、10年経ってこういうことで、今現在こういうことできます。」というのを知りました。「10年後20年後は、こういうことができてるんだろうな、もっといろんなことができるのだろうな」っていう予測もできるのが楽しかったです。やっぱ未来は明るいと思わないと、ですよね。次の世代につなげたい。次の世代につなげるためにも頑張ろう、と。

梅崎 次の世代を見据えているからこそ、ITとか、DXやっていかないといけないんだなっていう理解を僕はしました。

藤谷竜也さんプロフィール
藤谷竜也さん。 北海道十勝にある1900年創業の牧場「藤谷牧場」の社長。「藤谷牧場」は高祖父(祖父の祖父)が1907年に秋田県から新得町に入植して畑作、酪農場として開業した。
藤谷竜也さんはもともと農業の経験がなかった。藤谷家の長女である妻と出会い、婿入り。父から後を継いだ。就農した当時の肉牛約170頭は今の約200頭まで増えた。藤谷さんは「祖父母、父母が築いてきてくれた土台があったからこそ。しっかり引き継ぎ、次の世代に渡したい」と話す。
うめけん校長プロフィール
うめけん校長プロフィール
梅崎 健理(うめざき けんり) DX学校 校長 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 研究員(非常勤)。 慶應義塾大学 総合政策学部 卒業。
「~なう(SNSで今何をしているかを表す言葉)」で「新語・流行語大賞」トップ10受賞。
中小企業庁「中小企業デジタル化応援隊事業」説明会講師ほか、札幌市「DX推進リーダー育成プログラム」福岡市「生産性向上のための人材育成事業」他、各地商工会議所等でのDXセミナー講師など実績多数。 公益社団法人日本青年会議所 「JCI JAPAN TOYP 2019」(青年版国民栄誉賞)選考委員
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