DX学校は、全国のDX学校の講師と受講生を対象に、三重県伊勢市のゑびや大食堂と、ゑびや大食堂が開発した「TOUCH POINT BI」を販売する株式会社EBILAB、「TOUCH POINT BI」を活用する株式会社プラスパン(東京都江戸川区)を巡る研修を実施しました。
DX学校では、主に全国のDX学校の講師を対象に、最新のトレンドや特定のツールに関する勉強会を行う機会や、講師同士で勉強し合う機会がありますが、いずれもオンラインでの実施であり、実際に現場に行っての研修は今回が初めてでした。
日程
月日 | 内容 | |
2024年7月10日(水) | 午後 | 伊勢市駅に集合。 伊勢神宮参拝後、参道を散策して、ゑびや大食堂の周辺環境や他の食堂の売り物などを理解しました。 |
2024年7月11日(木) | 午前 | ゑびや大食堂を訪問。 店内をくまなく案内していただき、大食堂で参加者各自が好きなメニューをいただきました。 また、店内各所に設置された様々なITツールの利用法を教えていただきました。 |
午後 | 研修。 研修は2部制で実施しました。 第1部では、ゑびや大食堂とEBILABの2社の代表である小田島社長より、事業継承してから今に至るストーリーを伺いました。 第2部では「TOUCH POINT BI」で、実際のゑびや大食堂のデータを使わせていただき、データの分析法と活用法を学びました。 | |
2024年7月12日(金) | 午前 | 三重県伊勢市から東京都江戸川区に移動。 |
午後 | 「TOUCH POINT BI」を活用しているパン屋さん「リヨンコッペル」でパンを購入して味わった後、代表の滝沢さんから「TOUCH POINT BI」の活用状況を学びました。 |
ゑびや大食堂とEBILABについて
ゑびや大食堂は、中小企業のDXの成功例として、よく紹介される食堂です。
ゑびや大食堂の事例は、DX学校の教科書でも紹介しています。
ゑびや大食堂は、三重県伊勢市の伊勢神宮の参道に位置し、伊勢神宮の参拝客を対象として約100年営業してきました。
現在の社長である小田島春樹氏がゑびや大食堂を事業継承してからの12年間で、売上を8.7倍に、利益を約12倍にしました。
急成長の裏側には、小田島社長の積極的なITの導入があります。
ITに任せられることはすべて任せ、取得したデータを分析して施策を次々に打つことによって、急成長を成し遂げたのです。
2018年には、ゑびや大食堂のために開発したツールを販売する株式会社EBILABを創業しました。第二創業ですね。
株式会社EBILABの「TOUCH POINT BI」は、飲食業のみならず、小売業、ショッピング・モールなど、数多くのサービス業各社に採用されています。
リヨンコッペルと運営会社のプラスパンについて
株式会社プラスパンは、今回訪問したリヨンコッペルを含む3店舗のパン屋さんを東京都江戸川区で経営する会社です。
プラスパン代表の滝沢光男さんは、DX学校梅崎校長の講座で「TOUCH POINT BI」を知り、自社のニーズにぴったりだと、2023年11月に導入しました。
今回の研修では、売り側のEBILABの話だけでなくユーザーのお話も聞いて、「ツールの導入がどのように経営を変えているのか」を学べるようにしました。
Day 1:伊勢神宮参拝と周囲の環境を体感
「ゑびや大食堂」の改革を知るためには、ゑびや大食堂がどのような環境にあるのかを知らなければなりません。
そこで、この地域の集客力の源である伊勢神宮に参拝して、「伊勢神宮に参拝するとどのような気持ちになるのか」を知り、また、観光客と同じように参道を散策して、「周囲にどのようなお店があるのか」「どのような価格で販売しているのか」ということをDay1で体感しました。
Day 2 :ゑびや大食堂の見学とEBILAB研修
Day 2は、開店前のゑびや大食堂に集合し、ゑびや大食堂をくまなく見学させていただきました。
食堂や売店(ゑびや商店)の店内のみならず、厨房や在庫を管理している場所、事務所の中など、店内をくまなくご案内いただきました。
参加者の多くが強い関心を示したのが、在庫管理などに利用している「スマートマット」でした。
ゑびや大食堂では、おみやげ品などの在庫品や、ふきんなどの消耗品、コピー用紙などの事務用品から、おつりに使う小銭に至るまで、このスマートマットの上に乗せて重量で管理しているというのです。
残数が基準値を下回ると、自動的に発注する仕組みを採用しています。
たとえば、硬貨50枚をセロファンで棒状にしてあるものを「棒金」といいますが、100円玉は棒金1本あたり何グラム、10円玉は何グラム、というのを記憶させておき、この数量を管理しています。
これにより、残数の管理はしなくてよくなりますし、棚卸しの際に毎回数量を数えなくてもよくなります。店内の物品を全てこれで管理すれば、「棚卸し」という概念がなくなると言ってもいいかもしれません。
自動発注といっても、発注先がメールなどのデジタル受注に対応していない先に関してはファックスでの発注も自動化できるのだそうです。
これには参加者の多くが驚き、その場で導入を考えた人もいらっしゃいました。
また、「TOUCH POINT BI」ではリアルタイムで来店者数が把握できますが、「店頭の看板を新しいものに変えたところ、いきなり来客者数が減少したので、即刻以前の看板に戻したことがある」というようなお話も聞けました。
昼食は、もちろんゑびや大食堂で、自慢の料理を各自で選び、おいしくいただきました。
午後は研修です。
まず、有限会社ゑびや代表取締役の小田島春樹さんから、2012年に事業継承してから今までのストーリーをお話しいただきました。
ゑびや大食堂の飛躍には、IT導入が大きな鍵となっているのですが、次々にITツールを導入していった背景には、「ITツールを導入したい」とか「お店を合理化したい」といったことではなく、「自分自身が楽になる」ということがあったのだそうです。
会社組織とはいえ、家族で経営しているゑびや大食堂では、経営者のやることが山のようにあり、朝から晩まで寝ずに働いても思うような収益が得られませんでした。
そこで「ITでできることはITに」「社外に委託できることは社外に」と考えて、少しずつITツールを導入していき、業務をアウトソーシングしていきました。
現在では、在庫管理はスマートマット、コミュニケーションはSlack、テーブルの上に置かれた注文システムはポスタス、といった具合にIT導入で楽ができる部分はITツールに任せています。また、かかってくる電話の応対は電話自動音声応答システムを使用して、業務効率化を実現しています。
ゑびや大食堂では「TOUCH POINT BI」が生まれましたが、このツールで行うのはデータ分析や需要予測、売上報告、アンケート分析といった領域で、それ以外はクラウドでサービスを受けられるSaaS (Software as a Service)を多用しているのです。
SaaSは安価でサービスを受けられるのですが、必ずしも自分がやりたい運用ができるかどうかは使ってみないとわかりません。これまでも注文のシステムやPOSレジなどは「一つ試してはやめて他のツールに乗り換えてみる」ということを何度もやってきました。
そして、「ウェブサイトやオンライン・ショップにどこからどのようなお客様がやってきて、ウェブサイトの中でどのような行動をするのか」を分析する「Google Analytics」のような、実店舗の分析ができるツールは探しても見つからなかったのです。
「それなら自分たちで作るしかない」
「TOUCH POINT BI」を開発するに至ったのは、これが発端でした。
魚や肉などの生モノを調理する飲食業では、「明日、何をどのくらい仕入れればいいのか」が重要です。
季節変動により前年までのデータは参考になるだろう、近隣のイベントとそれに伴う人出も関係するだろう、もちろんお天気も関係する……と考えられる要素を羅列して、何年もかかって正確な需要予測ができるようになったのが、現在の「TOUCH POINT BI」の姿です。
仕事を楽にするためにSaaSは活用する、どうしても自社で必要だけれど世の中で売っていないものは自社で開発する、というのが根本的な姿勢です。
システム開発を始めると「あれもこれも開発」となりがちです。ゑびや大食堂では自社で必要なものを徹底的に開発したのですね。
完成した「TOUCH POINT BI」は他の飲食業のお店にも使えるのではないか、と販売を始めたのがEBILABです。
現在では、飲食業のみならず小売業全般に有効であると認められて、多数の会社に採用され、ショッピング・モールなどの大型商業施設でも導入されています。
続いて、「TOUCH POINT BI」の期間限定アカウントをEBILABからご提供いただき、実際のゑびや大食堂のデータを使いながらデータ分析の方法を学び、さらにこのデータ分析をもとに、ゑびや大食堂の小田島社長に新商品や新ビジネスの提案を行う、という研修を行いました。
「TOUCH POINT BI」にはさまざまな画面がありますが、それぞれの画面が指し示すものについて説明を聞きました。
各画面から、連携可能なクラウド・レジの取引情報や、気温や天気などの天候情報、画像解析AIを利用したネットワークカメラの情報、その他ビッグデータなど、店舗運営に関わるデータを自動収集し、可視化している事がよくわかります。
各サービスのデータ収集にかかる時間を短縮し、レジ・データのみでは難しい多角的な分析が可能となり、店舗の業務効率化を実現できることがよく理解できました。
参加者が4人ずつのグループに別れ、それぞれ「TOUCH POINT BI」を使用して、データ分析を行いました。
「データ分析の結果を踏まえて、小田島社長に経営の改善策を提案をする」というのが今回の研修のハイライトでした。
それぞれ「TOUCH POINT BI」のどの画面からどのような結論に至り、どのような施策を行えばいいのかを、ゑびやの小田島社長に提案しました。
短時間ではありましたが、「データを用いてどのように経営を改善するのか」に頭を絞りました。
研修終了後、小田島社長とEBILABのスタッフには夕食会やその後の二次会にも参加していただき、今回の参加者にさまざまなアドバイスをしていただきました。
いただいたアドバイスはITやデータ分析のことのみならず、中小企業の経営のこと、小田島社長の趣味の釣りなど、広い範囲に及びました。
Day 3:プラスパン研修
Day 3は三重県から東京に移動し、東京都江戸川区の株式会社プラスパンが経営する「リヨンコッペル」近くの会場にて研修を行いました。
この日も、Day 1に伊勢市内を散策したのと同じように、駅からリヨンコッペルまで徒歩で移動して、この街の環境を把握し、リヨンコッペルで好きなパンを購入して食べてから研修プログラムに臨みました。
講師は、リヨンコッペル他3店のパン屋さんを経営するプラスパンの滝沢光男社長です。
プラスパンの「TOUCH POINT BI」の導入に関しては、DX学校の事例紹介ページで詳しくレポートしています。 https://dx.school/2024/05/13/pluspan-interview/
滝沢社長は「多くのパン職人は、おいしいパンを作って陳列するのが仕事だと思っているようです。でもそれではダメで、パンを買っていただいておいしい体験をしていただくという職人ではなく『商人』でなければいけない」と考えていらっしゃいます。
そのうえで重要なのは、「パンを作ること」「パンを売ること」そして「管理すること」であり、「TOUCH POINT BI」は、この「管理すること」に大いに役に立っているとのことでした。
追加で欲しい機能としては「AI課長」だそうです。
「TOUCH POINT BI」の画面を四六時中見つめていれば「このままのペースで売れていくとバター・ロールがもうすぐ品切れになるよ、今のうちに焼いておいたほうがいいよ」ということをAIが判断して自動で伝えてくれる機能があるともっといい、とのことでした。
三重県の伊勢から始まり、東京へ移動しながら行われたこの研修は、ITやデータ解析に関してはもちろん、中小企業の経営や日々の運用まで考えることのできた貴重な経験でした。
DX学校は、今後もこのような研修を行って、DX学校各校講師や、その受講生のレベルをどんどん向上させていきます。